アメリカで学んだ先輩帰国子女からのアドバイス 現役塾頭に強い印象を残した、ある生徒の話

優塾USA」の塾頭による教育と子育てに関するコラム『ロサンゼルス「優塾USA」の塾頭のブログ』からの転載記事です。今回は現役塾頭が、強い印象を残したある生徒に関する実話を語ってくれます)

印象深かった生徒

今年の夏に日本に一時帰国した時、20年も前の私が優塾で教え始めたばかりのころの元生徒に会いました。彼女、永田真理(仮名)さんについては以前、教育通信に書いたことがありますが、改めて今回以下に紹介します。 優塾で私が今までに見た生徒は400人以上。印象深かった生徒も何人かいます。そのなかの1人に、こんな生徒がいました。その子はすごい努力家で、塾の宿題をやってこなかったことはありませんでした。どんなに忙しくても必ずやってくるのです。一度、金曜日の最後の授業(夜の9時半)に出した小論文の宿題を、土曜日の朝9時の授業にやってきた時は驚いて、「いつやったの?」と聞くと、「朝早く起きてやりました」とのこと。彼女は中学2年でアメリカに来て、初めは優塾で英語の授業をとっていました。使っていたのは、日本の中学の普通の英語のテキストです。しかし英語がぐんぐん伸び、教えることがまったくなくなり、そのうちネイティブ並みの文章を書くようになりました。高校はカリフォルニアのPeninsula Highに行きましたが、成績は4年間すべての教科でA。首席で卒業し、その後彼女は東大を卒業しました。 しかし、彼女のことが印象深かったというのは、勉強がよくできたからでも、東大に入ったからでもありません。こんなことがあったからです。彼女は優塾で週にクラスを6つも取っていて、メーク・アップ授業をする時間もなかったために、授業料を割り引いてその代わりメーク・アップ授業はなし、という決まりになっていました。 高校の卒業式の日です。夜は卒業パーティーがあり、当然、塾には来ないだろうと思っていると、なんと来たではありませんか。パーティーをキャンセルして塾に来てくれたのです。教える方も燃えないはずがなく、その日の授業はいつになく熱のこもったものになりました。涙で自分の書いた字が見えなかったのを、昨日のことのように覚えています。 最後は冗談ですが、すごく嬉しかったことを覚えています。先日会った時にこの時のことを言うと、彼女も覚えていて種明かしをしてくれました。彼女はアーリーで卒業したので、卒業生の中に同学年の友達が一人もおらず、だからパーティーに出なかったのだと。そんなもんか。でも、嬉しかったことに変わりはありません。

帰国子女へのアドバイス

彼女は現在、シンクタンクのN研究所でシステムエンジニアとして働いています(シンクタンクってどんなことする所かよくわからないけど)。彼女に「優塾で勉強している後輩たちにアドバイスをほしい」と聞きました。以下、後日メールで送ってきてくれた永田真理さんのアドバイスです。 「日本にも英語だけできる人なら、まぁまぁいます。帰国子女もそれなりにいるし、外人もいます。でも、英語だけでいい仕事なら、それはどこか海外に外注します。ですから英語がものすごい流暢だとしても言語だけが武器だと、ちょっとした通訳としてでしか仕事上、役に立ちません。プロの通訳として勝負するなら、それはそれでかなり訓練しないとだめですしね。しかし、何かしら専門知識や技術を持っていて、日本語もきちんと話せて、さらに英語もできる人は少ないです。私は、今でこそ『英語が使える永田さん』として活躍できる仕事をもらえてますが、それは、入社して10年、英語とは無関係にシステムエンジニアとして、ITと金融について修行した経験があるから成り立っています。英語に関係なくシステムエンジニアとして認められたからこそ、『あ、そうだ永田さんってそういえば英語もできるんだっけ?』と、今の配属先にありついて楽しくやれてます。英語だけなら、抜擢されることはなかったと思います。 日本語がちゃんとしている、というのもけっこう大事です。日本語が変だと、残念ながら日本人にはあまり信用されません。これからの世の中、どんな仕事だって『グローバルだグローバルだ』って言われます。だから、『英語が活かせる仕事』なんてあえて探す必要はないと思います。野球選手だって英語ができたほうがいい時代ですから。いっぽうで、英語が使えると間違いなく便利です。得です。 そして、現地に住んでいることで英語が自然に身に付くという相当お得な環境にいるわけなのだから、それを利用しない手はないです。あとは大学生や社会人になってから、何か自分の武器となるような専門分野に打ち込めるように、自分が何が得意なのか、何が好きなのか、何を武器にしたいのか、を見つけられるとバッチリだと思います。『英語だグローバルだって言葉にとらわれずに』がポイントです。私の場合、やっぱり数字が好きで、ロジカルシンキングが好きで、パズルとか証明問題を解くのが好きで、すんなり今の仕事までたどり着いたし、今も仕事上で何か課題があっても、パズル感覚で解決しようという気持ちでやるとうまくいきます。そういうのが好きだ得意だって認識したのは先生の授業で、なんですよ」

今の世の中、英語を話せるのが当たり前

最後の一文について説明すると、優塾では授業中に息抜きがてら理詰めのパズルをよく出していました。正直に言うと、永田真理さんがいたころは優塾の指導技術も低く、息抜きの時間、パズルの時間が今よりも多かったのです。彼女は私が出すパズルをほとんどすべて解きました。ちょっとでも役に立ってくれて良かったです。 永田さんが今いる部署では、彼女だけが英語を自由に使えるので、子供もいて働く時間も限られているのに同僚・上司からすごく重宝がられているとのことです。朝出勤すると、彼女に読んでもらいたい英語の書類などが机にどさっと置いてあるとか。日本で会ったとき、「英語を使う部署にたまたま配属されて私はラッキーだった」と言っていましたが、彼女が書いているように、英語以外の武器がなかったらその部署に配属されていなかったでしょうし、最初から英語をメインで使う会社に行っていたら、みんなが英語を使えるだろうから、そのラッキーもなかったでしょう。 彼女が上のアドバイスをまとめてくれました。 『英語はしっかり勉強しておけ、ただし日本語も』 『英語以外の武器を持て』 『仕事の条件として英語にこだわるな』 覚えておいても損はないと思いますよ。 彼女は帰国生だったので、日本に帰国する子へのアドバイスになっていますが、アメリカの大学に進学する子も、世界共通語である英語をしっかり勉強しておくのは当たり前です。彼女に「これからの時代、中国語も必要じゃない?」と聞いたら、「私が仕事する中国人は、みんな英語が話せるんです。だから英語しか使いません」とのこと。 将来、中国人と仕事をして、「このアメリカ人、たまに文法間違えるんだよ。レベル低!」なんて思われないように、アメリカ人として恥ずかしくない英語を身につけておきましょう。そして、何か武器になるものを見つけておくことは、どこに住もうと絶対に必要なことです。

Sea?Ocean?それともBeach?

20年前、永田真理さんに英語を教えていて、逆に英語を教えられたことがあります。日本のテキストにこんな問題があったのです。 英語に直しなさい。「昨日、私は海に行きました」 答には「I went to the sea yesterday」と書いてあり、私ももちろんその通りに教えていました。たまに「ocean」と書く子がいて、「ははは、oceanというのはね…」と得意になって説明していました。しかし彼女の答えは、「I went to the beach yesterday」。それを見て私は、「あ、そっか。海ってビーチか」、彼女「そうでしょ。seaに行ったっておかしいよ」。いやぁ、勉強になりました。 ちなみに、彼女の英語の発音は今でも完璧で、私がiPhoneのSiriに「Hawaiian」と話しても、Siriは100%「How are you?」としか取ってくれず、「I feel good」とか「Excellent!」としか返してこないのに、彼女が話したら一発でハワイの情報が出てきました。英語の発音に自信のある方は、一度お試しあれ。 永田さんのアドバイスは参考になったでしょうか?英語ができるだけの人間なんて、現在の日本には十分に存在しますよね。帰国子女の方だけでなく、これは留学生でも駐在妻の方でも、心に留めておくべき事実だと思います。